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幽霊西へ行く(日语原文)-第19章

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「外交は詭弁《きべん》なり――マキャヴェリは、するどいところをついているね。僕《ぼく》には、その詭弁を弄《ろう》することが、どうしても出来なかった。生まれつきで、どうにも仕方のないことだが、それが僕《ぼく》の外交界から退いた動機でもあった。ただ、僕は自衛のために、その詭弁《きべん》を見やぶる力だけは養って来た。犯罪もまた詭弁なり――と僕はいいたいね。今度の事件は、二に一を加えて二になるという詭弁だよ」
 警部の口の中で、海老《えび》がとび上がった。彼は兎《うさぎ》が亀《かめ》に追いつけないという、有名なギリシャ哲学者の説を思い出したのである。
「な、何です。その高等数学は。そりゃ、支那鞄《しなかばん》のことですか」
「それもそうだが、僕は第一に、人間のことをいっているんだよ。二人に一人を加えて、二人になったとしたら、その一人はいったい何者だろう」
「幽霊《ゆうれい》ですか」
「幽霊かも知れないね」
 白川武彦は、微笑《びしよう》しながら言葉を続けた。
「むかし『幽霊西へ行く』という映画があった。イギリスの古城に住んでいる幽霊が、城といっしょにアメリカへ渡《わた》るという話だが、その中で、僕の吹《ふ》き出したのは、その城を買いとって、アメリカへ移築しようとしたブルジョアだ。彼は歓呼の声にこたえて、自動車で市中行進をする。彼の隣《となり》には誰《だれ》もいない。ただ幽霊《ゆうれい》の指定席という札《ふだ》がはってあった」
 白川武彦は、微笑《びしよう》しながら、言葉をつづけた。
「幽霊は君といっしょに西へ来たんだよ」
 警部は、とたんに大きく咳《せき》こんだ。
「じょ、冗談《じようだん》をおっしゃっちゃいけません」
「冗談じゃないよ。君は、いっしょに平塚から、君の自動車にのりこんだ人間を誰だと思ってるんだ」
「平塚警察の大宮とかいう刑事《けいじ》でした」
「平塚警察へ、電話をかけて聞いて見たまえ。そんな刑事がいるかどうか、いたとしたら、君といっしょに湯河原まで来たかどうかをたしかめたまえ」
 警部は箸《はし》を投げ出して、そのまま階段をかけ上がった。三十分ほどして彼は帰って来た。その顔には、全然何の血の気もない。
「おりません……たしかに、そんな人物はおりません」
「そうだろうとも。それが第一の幽霊だよ。おそらくは、第二の支那鞄《しなかばん》に入っていた死体の主――平塚の殺人事件の犯人だね」
 高島警部は、ベタリと畳《たたみ》に腰《こし》をおろした。
「そんな馬鹿《ばか》な……いくら何でも……」
「ちっとも馬鹿な話じゃない。いいかね。平塚の警官は、君にお二人ですね、と聞いた。彼はもちろん、哕炇证蛴嬎阃猡摔い欷皮い俊>献苑证坞O《となり》に坐《すわ》っていた男を、平塚警察の刑事《けいじ》だと思っていたから、それを度外視して、自分と哕炇证坤堡蚴à俊6抓楗挂互ぅ畅‘ル二。ここに一人の人物が、完全に注意の外に逃《のが》れ去った。この殺人鬼は、こうして重囲の中から脱《だつ》することが出来たんだ」
「すると……私は、殺人犯人と、知らずに同じ自動車に仱盲皮い郡铯堡扦工汀
「その通り。警視庁の捜査《そうさ》主任といっしょでは、警官だって疑いはしないよ」
 警部は深く首をたれた。
「恐《おそ》れいりました……むかしながらのご明察、いやはや感服にたえません……しかし、あの殺人犯人が、あの時自動車に仱辘长螭坤铯堡悉铯辘蓼工ⅳ饯欷嗓Δ筏啤⒖F《えん》もゆかりもないあの家に……」
「縁もゆかりもないことはない。この男は、上杉弥生の殺害犯人と、利害を共通していたんだ」
「共犯ですか」
「共犯じゃない。この殺人は、両方別々に起こっている。しかしふしぎな呙昔椁恰ⅳ郡い私Yびついていた。その糸をたどって、この男は青山|荘《そう》にあらわれた……そして、上杉弥生殺害犯人に殺されてしまった。……二時に、青山荘の裏門から入って行ったという人影《ひとかげ》は、弥生さんの部屋《へや》で、ハムサンドをかじったという幽霊《ゆうれい》は、おそらく、この男だったろう」
「白川さん、それじゃあ、あなたは上杉弥生殺人犯人の名前がお分かりなんですか」
「分かるとも。天の配剤というんだろうね。この男を殺さねばならなくなったのは、犯人の致命《ちめい》的な失敗だったよ」
「それじゃあ、犯人の名を教えて下さい」
「教えてあげることは、造作《ぞうさ》もないが……」
 白川武彦の顔には、憂《うれ》いの影《かげ》が浮《う》かんだ。
「知らぬ存ぜぬ――で頑張《がんば》り通されたら、この事件は大分長びくよ。新映映画の撮影所《さつえいじよ》に、鞄《かばん》を撙螭抢搐磕肖握{査、被害者《ひがいしや》の足どりの捜査《そうさ》、ちょっとやそっとじゃかたづかないよ。それよりも、今晩中に、のっぴきならぬ現行犯でおさえた方がよくはないか」
「現行犯……とおっしゃると殺人の――?」
「その通り」
「今度は、誰《だれ》が殺されるんです」
「君だよ」
 高島警部は思わず箸《はし》を膝《ひざ》におとした。
「あの殺人鬼は、今度は、私をねらっているんですか」
「ねらわれなければふしぎだよ。枺─闊岷¥貛ⅳ盲评搐郡趣恕⒕我鄹瞍辖Kわったんだ。君は、犯人にとって、この上もない、危険な存在になって来た……第二の殺人を行ってから、毒を喰《くら》わば皿《さら》までという心境になっている男が、君を見のがしなどするもんか」
「それじゃあ、どうすればいいんです」
「こうするのだ」
 声をひそめて、白川武彦は、ある秘策を、警部の耳にささやいた。
 一時間後、高島警部は、緊張《きんちよう》を禁じ得ない顔色で、青山|荘《そう》に帰って来た。
 関係者一同は、まだ態《てい》よく、この家に軟禁《なんきん》されていた。警部は、あの降霊《こうれい》実験の行われた一室に、その人々をよび集めた。
 天野憲太郎の顔には、憔悴《しようすい》の色がおおえなかった。そのほかの人々も、焦懀Г染o張に、顔の筋肉がひきつっているようだった。
「皆《みな》さん、この一日、大変ご迷惑《めいわく》をおかけしました……」
 警部は静かに切り出した。
「しかし、私は今こそはっきり、その犯人を知ることが出来ました。その名を申しあげることは造作《ぞうさ》もありません。しかし、この男がこれほど思いつめた心境に追いこまれたことに対しては、私にも一抹《いちまつ》の同情をおさえきれないものがあります。私は、彼に最後の機会を与《あた》えましょう。明日の朝、九時までに自首して出さえすれば……その後の罪の量刑《りようけい》にも、相当の考懀А钉长Δ辘琛筏瑨B《はら》われると思います」
 警部は、するどく人々の顔を見まわして、最後の止《とど》めを刺《さ》したのだった。
「私の言葉を、ただの威嚇《いかく》と思ってはいけません。私はこの事件の、最後の秘密を見やぶっています。この殺人の現場は、熱海でも枺─扦猡胜盲郡韦扦埂

    8

 高島警部は、その時まだ、犯人の名を見やぶっていたわけではなかった。ただ彼は、白川武彦から与《あた》えられたしぐさ、せりふの通りに、人形のように動いていたのだ。
 彼は自分の部屋へひきとって、寝台《しんだい》の上に静かに横たわっていた。眠《ねむ》ってはいけない。眠ってはいけない……白川武彦の言葉は、彼の脳裡《のうり》にこびりついて離《はな》れなかった。
 午前三時……かすかに部屋《へや》の扉《とびら》が開いた。そして、足音をしのばせて、激穷啢颏筏恳蝗
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